オンライン展示の作り方

Feb 5, 2021( Art, Webサイト制作

緊急事態宣言が延長され、クリエイターさんにとっては発表の機会が制限される日々が続いているかと思います。

昨年1回目の緊急事態宣言中、美術作家 城下浩伺が2020年4月18日から大阪のギャラリー「hitoto」さんで開催予定だった展覧会「PICTURE」のオンライン展示webサイトを作りました。

PICTURE オンライン展示特設サイト https://koji-shiroshita.com/picture-osaka

まだ緊急事態宣言が出る前の3月後半頃、このまま通常通りに展覧会を開催してもたくさんの人に来てもらうというのは難しそうだというのが見えてきていたので、城下浩伺やhitotoの皆さんと話し合って、オンライン展示の同時開催、という企画をスタートさせました。
その後感染状況は急速に拡大し、緊急事態宣言が出る前の段階で、作家とギャラリーの判断として、ギャラリーは開けずにオンライン展示のみオープンという方針を決めました。

しかし「オンライン展示」ってどうやってすれば良いのか?緊急事態宣言下でギャラリーを開けられない中でのオンライン展示というもの自体が史上初だったので、参考になる前例がありませんでした。

オンライン展示サイトの作り方は色々あると思いますが、私が当時試行錯誤した中から今回は2点。

⑴「展覧会」を構成しているものは何なのかを考え、それをwebで再現する

⑵ web上に作品画像をアップする事による、著作権侵害や違法コピーのリスクを回避する

について取り上げたいと思います。

⑴「展覧会」を構成しているものは何なのか

・作品展示

まずは作品が見られないといけないわけですが、作品の画像や展示風景写真を掲載するだけではただのカタログに過ぎず、「展示」とは呼べません。

「PICTURE」の場合は実際にギャラリーに展示設営をしましたので、オンライン展示でもその展示風景をできるだけ「リアルな展示鑑賞体験」として感じてもらうには?と考えて、VRを導入する事にしました。
とにかく時間が(予算も)なかったので、専用のVRカメラを調達する事はできず、iPhoneアプリで360度画像を撮影できるものを見つけました。

bubbli https://bubb.li/

自分の立っている位置を基点にiPhoneのカメラを少しずつ動かして周囲の写真を撮影していくと、AIが上手に継ぎ目を処理してかなり精度の高い360度画像を作ってくれます。(ある一点を軸にした360度画像ですので、ギャラリー内を歩き回ったり絵に近寄ったりというような体験はできません。)

これで展示会場の360度画像を何パターンも撮影し、アクセスする時間帯によって表示される画像が違うよう設定しました。
夜にアクセスした時はギャラリーのドアが閉まっていて照明も暗く、夜の雰囲気に。ギャラリーの営業時間内にアクセスすると、作家が展示空間の中に立っていたり、ギャラリースタッフさんがカウンターの中にいたりいなかったり、いろいろなパターンを用意して、アクセスする度に違う風景を見られるようにしました。
また、テスト段階の時にサイトを見た友人から「これってリアルタイムで映像を流してるの?」と言われたのがきっかけで、よりリアルタイム感が出るよう画面左上に現在時刻を表示させてみました。

パソコンではマウスをぐりぐり動かして会場を見る形になりますが、スマートフォンでは自分の動きに合わせて画面が動くVR表示になります。

・ギャラリーの雰囲気

ギャラリーを訪れた時に受ける印象は、オンライン展示の場合アクセスした時に受けるサイトの印象になると思います。hitotoはホワイトキューブ(白壁で装飾がないプレーンな空間)なので、ギャラリーを訪れた時に感じる雰囲気をwebサイトのデザインで感じられるよう、白をベースにしたプレーンなデザインにしました。

無料のホームページサービスやブログなどを使用して広告が表示されたりするのは避けましょう。ギャラリー空間に、展示とはまったく関係のないポスターが貼られていたりCMが流れていたりしたら、展示がぶち壊しになりますよね。

・ギャラリースタッフや在廊作家から聞く作品の説明やストーリー

ギャラリーに足を運ばれる方の中には、ギャラリーの方や作家本人から作品や展示に関する話を聞くのを楽しみにしている方もいます。また、オンライン展示では作品や展示の実物を見られない分、どうしても得られる情報量が減ってしまいますので、言葉での補足説明が必須だと思いました。

例えば実物を見て得られる感動量が100だとしたら、webの作品画像を見て得られる情報量は半減すると想定して、言葉での説明で残り半分を可能な限り補う、という感じです。

作家にはオンライン展示開催の18日前から、毎日今回の展示や作品に関する事、コロナ禍の現状で考えている事などのテキストを書いてもらってオンライン展示サイトを更新しました。
テキストは毎日SNSにも流して、フォロワーさんの興味が展示開始まで途切れないように発信を続けました。
結果的に、コロナ自粛期間という非常事態に作家が何を考えていたのかをアーカイブとして残す事もできました。案外こういった事は時間が経つと忘れてしまいますので、渦中にある時にできるだけ記録を残しておくというのは大事だなと思いました。

⑵ web上に作品画像をアップする事による、著作権侵害や違法コピーのリスクの回避

・画像サイズに注意する

今はインターネット上には膨大な数の画像が上がっていて、誰でもそれをダウンロードして楽しんでいい、と思っている人も多いです。
個人的にスマートフォンなどに保存して眺めるくらいの事には目を瞑っている作家さん・イラストレーターさんが多いと思いますが、別の用途に転用されたり、印刷してグッズを勝手に作られたりというトラブルは防ぐ必要があります。
オンラインに作品画像をあげるときは少し解像度に注意し、無駄に高解像度の画像をあげない方が良いでしょう。

では最適な画像サイズはどのくらいかというと、最近はパソコンもスマートフォンやタブレットも高解像度なので、そういった端末できれいに表示させようと思うと結構なサイズの画像が必要になります。

今回は、縦の長辺を1350px(Instagramに縦位置で投稿する時の最長サイズ)にしました。これなら印刷しても、オフセット印刷の推奨解像度350px/inchなら約7cm×9cm でポストカードのサイズにも満たないので、勝手に商品化されるのはある程度防げると考えます。(低解像度で商品化されているものは競合にならないので論外と考えます)

家庭用プリンタでの出力の場合は200px/inchで、12cm×17cmのポストカードサイズぐらいになります。こっそり家の中でプリントアウトして楽しむくらいなら……という落とし所です。

・ダウンロードをちょっとだけ防ぐcss

ダウンロードを防ぎたい画像のCSSに

img{
 pointer-events: none;
}

という設定をしておくと、簡単に画像をダウンロードされるのを防ぐ事ができます。(知識があれば回避できますので、完璧な予防策ではありません。)

・訴訟もしてくれる無断盗用発見ツール

印刷ではなくオンラインでの無断盗用については、Pixsyというサービスを利用しました。

Pixsy https://www.pixsy.com/

画像を登録しておくと、同じ画像を他のサイトで見つけて報告してくれます。無視するのか、削除依頼を出すのかは自由に選べ、ひどいケースでは訴訟をお願いする事もできます。(訴訟はPixsyがやってくれるのでこちらは何もしなくて良いそうです。)
訴訟まで行く事はなかなかないでしょうが、保険として登録しておくと良いのではないでしょうか。

参考記事:自分が撮った写真が「無断」で使われていないかチェックできるサービス「Pixsy」

オンライン展示は(現時点では)決してリアル展示を完璧に代替できるものではありません。それでも昨年の自粛期間中は今よりもずっと家の中にいるという時間が長くて、このような形でのオンライン展示でもけっこうたくさんの方に楽しんでもらう事ができました。
「美術手帖」オンラインの展覧会情報に、史上初めて掲載された「オンライン展示」ではないかと思います。
PICTURE(hitoto|大阪)|美術手帖

これからオンライン展示をしてみようという方の参考になれば幸いです。

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