景譜 あとかた

「無由」という場所があります。友人のインテリアデザイナー髙橋真之さんが内装設計したサロンです。

無由主宰の守屋里依さんによるお茶、京都の菓子工房 御菓子丸の杉山早陽子さんがテーマとお茶に合わせて創作されたお菓子、髙橋さんデザインによる空間からなる茶会「景譜」にお邪魔してきました。

景譜とは、「楽譜や図譜のように、折々の風景を譜す(しるす)こと」里依さんがつくられた言葉です。
それぞれの季節ごとにおこなわれた計5回の景譜、春だけは参加できなかったのですが、夏、秋、冬の三つの季節を一緒に過ごさせていただきました。

お茶を好きになったのは、大学での小川流煎茶の授業がきっかけです。その年は奇跡的にその講座を選択した生徒がかなり少なかったおかげで、超少人数でお家元から直接お茶を教わることができました。
小川流煎茶のロジカルなお点前が好きで、中でも文人手前というのがいちばん好きでした。シンプルで、合理的。きりりとしているけど、ちょっとラフ。

景譜で里依さんがいれてくださる中国茶のお手前は私の習った煎茶手前に近いのですが、決まりきった形ではなく、その会ごと、そのお茶ごとに考え練られた所作が美しくて、見ているだけで気持ち良い。毎会のテーマを軸に、一本のストーリーを紡ぐようにお茶とお菓子をふるまっていただきます。先日の冬の会のテーマは「あとかた」。

一景 あとかた

スタートはテーブルでの立礼式。お茶は柚子釜茶。中身を取り出した生の柚子をうつわに見立てて、三年番茶の茶葉に柚子の香りをうつしています。柚子のすっぱさとは違う種類の香り。牛蒡が入っているそう 。ごぼう!茶とごぼうといえば思い出すのは新年のお菓子、花びら餅(←実はあんまり好きではない)。でもこのお茶はとてもおいしかったです。

お菓子は「あとかた」。和三盆のお干菓子です。お干菓子とはいっても、作りたてでとてもやわらかく、口に入れるだけでふーっと溶けていきます。最後に残ったなにかの実が香ばしい。なんだろうなんだろうと皆で考えて、答えは松の実でした。

二景 ふくみ

場所を隣のソファ席にうつします。

早陽子さんが七輪で四角いお餅のようなお菓子をころころ転がしながら焼いてくれます。お菓子の名は「ふくみ」。
好きなひらがなはなんですか、というお話で、早陽子さんは「ふ」がお好きだと。私も好きなひらがなです。なんといっても屋号は「みふくデザイン」です。よく「ふくみデザイン」と間違われます。

お菓子の「ふくみ」は、葛で作られたお餅でした。七輪で焼くと、中がねっとりぷるんとして不思議な食感。名前もふくめ大好きなお菓子になりました。お茶は水出しのダージリン。

三景 けわい

三景は茶室で。お茶は雲南省の少数民族によってつくられているという希少な古樹白茶。香りが段階的に変化していくのがおもしろく、飲んでみると香りの強さから想像していたよりもずっとやさしい味なのがまたおもしろい。
お茶を研究されていた里依さんのお父さまのお話の中で、最近わたしが衝撃をうけたラオス料理の「カオニャオ」とそっくりの食べ物が雲南省にもあるということが分かり、そういわれてみれば中国雲南省とラオスは隣同士なんですね。こんなところでも自分の興味が繋がって驚いた。

四景 巣

四景は最初のテーブルに戻って。お茶は祁門紅茶。目の前で早陽子さんがひとつずつお菓子を作ってくれます。ふわふわのきんとんの上に、ディルの小さな葉が乗ります。これは鳥の羽に見立てていて、お菓子の名前は「巣」。
中の餡がとてもおいしいけど、何の餡だと思いますか?と聞かれて、また皆でうーんと考える。答えは「焦がし餡」で、だから少しキャラメルのような味。とにかくすごくおいしくて、にこにこしてしまう。

苞(つと)

最後に、冒頭の写真のお菓子「鉱物の実」が生っている黒文字の枝から、鋏でひとつ切らせてもらう。高橋さんが折ってくれた折方にしまって持ち帰りました。

私にとって景譜は、気持ちの良い緊張感がよけいな事を考えず「今のこの時間」に集中させてくれる貴重な機会でした。所謂「茶道」ではないので、作法に気をとられることもなく、自分の五感を研ぎ澄ませてしっかり味わって楽しむことが最大の礼儀だと解釈していました。(「茶道」も完全に作法が身につけば気をとられることもないのでしょうが、不調法ですので)
うまく言えないけれど、「こんな展示がしたいな」と思います。

「景譜」はこの「あとかた」の会をもって終わりとなりました。里依さん、早陽子さん、高橋さん、良い時間をありがとうございました。

御菓子丸さんの鉱物の実。黒文字の枝ごと刈り取ってきました。